観劇備忘録

舞台を中心にいろんなものの感想を書き留める備忘録です。

ナイトメア・アリー


2022/4/29

 
フォロワーさんがよかったと言っていたので、同じ趣味のフォロワーが言うなら間違いない!と思って見に行きましたが大正解でした。
 
すごく簡単に言うと、カーニバル(サーカス)で読心術を覚えた男、スタンが成功し成り上がるけど、金に執着して人の心を支配して意のままに操ろうとした結果破滅する話。
 
闇のグレイテスト・ショーマンじゃん!?!
 
カーニバル等の要素、ざっくりした話の展開は似てるので思わずこう思ったけど、中身は全く似てない。嫌な予感が的中していくような映画。音楽も映像も不穏で最高なんだけど、自分がしたことには報いを受けるという後味はよくないタイプ。
 
前半は奇妙で怪しいカーニバルの世界が描かれる。奇形児のホルマリン漬け、獣人等見るのが怖いようなもっと見たくなるような不思議なものたち。サーカスってなんでこうワクワクするんでしょうね。
一転して後半はスタンが興行師として成功し上流階級とも関わりが出てくるので、アール・デコ様式の建築や調度品がいっぱいで目に楽しい。
前半と後半で雰囲気がガラッと変わるので一粒で二度美味しい(?)みたいな映画だった。
 
 
○登場人物について
・スタン
そんなに悪い人ではないんだろうなぁとは思った。もちろんやったことは悪いが。父親を殺したのも、虐待を受けていたのでは?と言われてるシーンがあったので屈折した感情を抱えていたんだろうと思うし、ピートを殺したのも私は事故だったと思っているので、リリス博士に出会わなければ踏み留まれたのかなと思ったり。というかピートの件についてはあんな紛らわしい置き方する方が悪くないか??もっと「危険」みたいな注意書きしとけよ。根っからの悪人ではないけどただ弱い人だったんだろうなぁ。そして読心術を身につけたことによって「自分に特別な力があると勘違いした」ことが悲劇の始まり。
 
リリス博士とモリーなら断然わたしはモリー派です。純粋で心の綺麗な女性。でも薄幸そうな感じがするのであの後幸せになっててほしい…すごく清廉潔白な人だと感じたので、スタンはモリーといると自分の罪を露わにされるようないたたまれなさを感じて避けるようになっていったのかなぁと思ってた。
 
リリス博士
妖艶でミステリアスですごく魅力的だけど何を考えているかわからなくて一番怖かった。スタンがあれだけ飲まないと決めていた酒を飲むようになったのもあって、快楽を教えて人を堕落させていく悪魔のようだなと思った。リリスという名前の通りまさしく悪魔。
 
 
○物語の主題、ラストについて
ラストシーン、全てを失ったスタンがたどり着いたのは、かつて居たのとは別の見知らぬカーニバル。警察からの逃亡生活で髪や髭は伸び放題で服はぼろぼろ。風呂にも入っていない浮浪者のような風体。カーニバルの人に「自分は読心術ができるから雇ってくれないか」と売り込む。でも読心術は今は流行らないからと代わりに提案されたのが獣人(ギーク)を演じること。スタンは諦めたような全てを悟ったような笑みを浮かべ「これが宿命だ」と受け入れる。
 
物語前半でカーニバルの仲間が教えてくれたギークの作り方は、アルコールや薬物に依存している男を見つけて、本物のギークが見つかるまでの一時的な仕事だと言って声をかけるというもの。食事、酒、寝床を与えここが天国だと思わせる。けれど酒にはアヘンを少しずつ混ぜて依存させ、もっとここにいたい、ここを追い出されたらどうしようと不安になった男は鶏の血をすすり自らギークを演じることを選ぶ。
ギークはナイトメア・アリー(悪夢の小路)で見つけると言われた時点で、ラストシーンも少し予想はできていたけど実際に見るとうわぁとなんとも言えない気持ちになった…
スタンも悪夢の小路に気がつかないうちに(あるいは気づいていたけれど)、迷い込んでしまったという印象を受けた。
スタン役のブラッドリー・クーパーがパンフレットのインタビューで「あれはスタンにとってはハッピー・エンディング」と語っていた。見ている側にとってはバッドエンドに感じるけれど、ずっと罪の意識に苛まれて苦しむよりは罰を受け入れる方が苦しまずにすむのかもしれない…あのラストはある種の救いなんだろうか。
 
ピートの言っていた「神の顔が正面にある、神は見ている」(うろ覚え)が全体を通してのテーマなのかなと思いました。最初に居たカーニバルで保管されていた、額に目のある奇形児のホルマリン漬け、エノク。母親の胎内で暴れて母親を殺したと言われている。どこからでも目が合うと言われていて不気味な存在感がある。第三の目は千里眼とか目では見えないものを見るとよく言われるけど、エノクもスタンの犯した罪を見ていると感じた。最後にまたエノクともう一度出会うのも「神はいつでもお前のことを見ている、罪からは逃げられない」ということなのかなと。エンディングでもわざわざエノクの映像をバックにクレジットが流れていたし。神に裁かれることが救いならばやっぱりあのラストは救いなのかなぁと思いました。